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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)1566号 判決 1987年12月25日

原告 森キン

<ほか三名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 山本安志

森田明

石戸谷豊

飯田伸一

杉崎明

福田護

佐藤嘉記

藤村耕造

星山輝男

星野秀紀

武井共夫

小野毅

平岩敬一

被告 京谷眞宏

<ほか一名>

主文

一  被告京谷眞宏は、原告森キンに対し、金一三〇四万円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自原告安達糾夫に対し金三〇四万円、同安達ヒロに対し金二〇一万円及びこれらに対する被告京谷眞宏においては昭和六一年三月一三日から、同甲野太郎においては同年七月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  被告京谷眞宏は、原告片野嘉市に対し、金一〇一万円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

六  この判決は、一ないし三項及び五項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告京谷眞宏は、原告森キンに対し、金一三七二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自原告安達糾夫に対し金三一六万八〇〇〇円、原告安達ヒロに対し金二一一万二〇〇〇円及びこれらに対する被告京谷眞宏においては昭和六一年三月一三日から、被告甲野太郎においては同年七月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

3  被告京谷眞宏は、原告片野嘉市に対し、金一〇五万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告甲野太郎)

1 原告らの被告甲野太郎に対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、被告らのマリーンオーナーズ証券商法により生活資金を失った被害者である。

(二)(1) 大洋商事株式会社(以下、「大洋商事」という。)は、昭和六〇年二月マリーン会員権の販売を目的として設立された。右大洋商事は豊田商事株式会社(以下、「豊田商事」という。)の子会社であり、同じく豊田商事の子会社である株式会社豊田マリーンクラブ(以下、「豊田マリーンクラブ」という。)の代理店として、豊田マリーン会員権の売買、マリーンオーナーズ契約の締結を行っている。

被告京谷眞宏(以下、「被告京谷」という。)は、右大洋商事の代表取締役である。

(2) 被告甲野太郎(以下、「被告甲野」という。)は、右大洋商事の横浜支店次長である。

2  被告らの不法行為

(一) マリーン会員権証券商法の違法性

(1) 大洋商事のマリーン会員権証券商法(以下、「本件商法」という。)は、大洋商事が顧客に対し、豊田マリーンクラブ傘下のマリーナの会員権を売却すると同時に、右マリーン会員権を顧客から一〇年間賃借し、その間マリーン会員権の賃借料として後記証券の券面額の一二パーセントの賃借料を毎年前払し、右賃借期間満了時にマリーン会員権を顧客に返還することを約し(マリーンオーナーズ契約)、その証拠として、「マリーンオーナーズ証券」を顧客に交付するものである。

(2) しかし、豊田マリーンクラブ傘下のマリーナの実態は、建設中のものや倒産したものが殆どであり、マリーナ開発・運用による収益は全く望めず、したがってマリーン会員権の資産的価値は乏しく、かつ、値上りは有り得ないうえに、顧客から受け取った金員の殆どは、人件費等の経費、関連企業への不良貸付、商品相場への投機などに費消され、そもそも、顧客への賃借料の支払は不可能であった。

それにもかかわらず、本件商法は、顧客に対し、会員権の値上がり、賃借料の支払い等が確実で絶対損をしないと申し向けて契約を取り付けるものであり、詐欺的商法である。

(二) 勧誘行為の公序良俗違反性

本件商法における勧誘行為は、すべて豊田商事が考案したマニュアル、手順に基づき、これを社員教育あるいは上司の指導により営業員が会得したうえでなされたものであり、その方法・態様は、老人、病人、独居者、主婦など無知、無経験、無力な者を対象とし、強引かつ執拗に行われるものであって、商取引上、社会的に許容される限度を逸脱し、公序良俗に反する。

(三) 勧誘の具体的内容

(1) 原告森キン

原告森キン(以下、「原告森」という。)は大正三年四月一五日生まれの七一歳の一人暮らしの老人である。

昭和六〇年四月一〇日午後五時ころ、大洋商事の営業員菅原一三(以下、「菅原」という。)が原告森宅を訪れ、同原告宅に上がりこみ、夜一一時過ぎまで、他人名義にしてある貯金があればこれを税金がかからないようにしてやると巧みにもちかけ、原告森の預金を聞き出し、翌日会社に税理士が来るから是非相談するようにと話した。原告森は、翌日貯金通帳を持参して大洋商事横浜支店に行ったところ、その税理士と称する者が出てきて、原告森の預金通帳を見て、「これでは莫大な税金を取られることになる。私が税金のかからないようにしてあげましょう。」といってすぐ右預金を解約するように話した。そして、原告森に右預金を解約させ、マリーンオーナーズ契約を結び、払戻を受けた一三〇〇万円を交付させた。

大洋商事はその後原告森に賃借料として一五六万円を支払ったので、原告森の実損額は一一四四万円である。

(2) 原告安達糾夫、同安達ヒロ

原告安達糾夫、同安達ヒロ(以下、それぞれ「原告糾夫」、「原告ヒロ」という。)は七六歳と七一歳の老夫婦であり、原告糾夫は高血圧症心疾患のため治療中の者である。

昭和六〇年五月一〇日、電話の後大洋商事の営業員鴨井敏普(以下、「鴨井」という。)が原告糾夫、同ヒロ宅に来て、同ヒロに対し、「豊田マリーンクラブ会員権を買って会社に賃貸してくれれば年一二パーセントの利息を支払う。絶対に損しないし、いつでも解約できる。」と言って執拗に勧誘し、同月一三日原告糾夫名義で三〇〇万円、原告ヒロ名義で一〇〇万円、同月二〇日原告ヒロ名義で一〇〇万円の会員権を買い取らせるとともにマリーンオーナーズ契約を結び、同原告らから合計五〇〇万円の交付を受けた。

その後、賃借料として、原告糾夫は三六万円、同ヒロは二四万円を受領したので、実損額は原告糾夫二六四万円、同ヒロ一七六万円である。

(3) 原告片野嘉市

原告片野嘉市(以下、「原告片野」という。)は大正三年生まれの七一歳の一人暮らしの老人である。

昭和六〇年四月二二日大洋商事から電話があり、その直後同社営業員新木郁子(以下、「新木」という。)が来て、同人から、「マリーンクラブをやっていてこれを若者に賃貸して収益を上げ、利息を一二パーセント支払うのでやってみないか。」と言われ、原告片野はこのマリーンクラブが昔住んでいたところにあったので、退職金の一〇〇万円を同人に預けて、マリーンオーナーズ契約を結んだ。その後、同原告は賃借料として一二万円の支払を受けたので、実損額は八八万円である。

(四) 被告京谷の責任

被告京谷は大洋商事の代表者として前記(一)、(二)記載の本件商法を、前記(三)記載のとおり同社の社員に実施させた。

(五) 被告甲野の責任

被告甲野は、大洋商事横浜支店次長として、右横浜支店において、前記(一)、(二)記載の本件商法につき、その内容を知りつつ、あるいはこれを知るべきであったのにこれを怠り、前記鴨井とともに原告糾夫、同ヒロに対し、前記(三)(2)記載のとおり勧誘した。

3  損害

(一) 被害額

原告らはそれぞれ別表被害額欄記載の損害を受けた。

(二) 慰謝料

原告らは、いずれも前記のとおり被告らの違法行為により老後の貯えである生活資金をねこそぎ取り上げられ、このため老後の生活不安、違法な勧誘による精神的ショック、解約に応じてもらえない苛立ちなど精神的に大きな損害を蒙った。これを慰謝するには、別表慰謝料欄記載のとおり被害額の一割相当の金員をもってするのが相当である。

(三) 弁護士費用

原告らは、前記被害の回復を求め本件訴訟の提起追行を原告ら訴訟代理人らに委任し、報酬としてそれぞれ別表弁護士費用欄記載のとおり被害額の一割を支払う約束をした。

4  結語

よって、原告森、同片野は被告京谷に対し、原告糾夫、同ヒロは被告両名に対し、不法行為あるいは共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、別表請求額欄記載の各金員及びこれらに対する訴状送達の日の翌日(被告京谷については昭和六一年三月一三日、同甲野については同年七月一九日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告甲野の認否

1  請求原因1(一)の事実は不知、同(二)(1)の事実のうち大洋商事及び豊田マリーンクラブが豊田商事の子会社であることを否認する。同(2)の事実を認める。

2  同2の事実を否認する。

3  同3を否認ないし争う。

三  被告甲野の主張

1  被告甲野は、大洋商事の横浜支店次長であったが、決済権限はなく、上司の指示を部下に伝達するだけであった。

また、会社の組織の中の一人である以上、個人の自由意思で行動したものではない。

2  顧客は納得して取引に応じた。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(二)(1)の事実のうち、大洋商事が昭和六〇年二月に設立されたこと、右会社が豊田マリーンクラブの代理店として豊田マリーン会員権の販売、マリーンオーナーズ契約の締結を行ってきたこと、被告京谷が右大洋商事の代表取締役であったことについては、被告甲野は明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、被告京谷との関係では、《証拠省略》により、これを認めることができる。

尚、《証拠省略》によれば、大洋商事は、銀河計画株式会社(以下、「銀河計画」という。)の系列に属し、同じくその系列に属する豊田商事、豊田マリーンクラブとは関連企業と認められる。

また、同(2)の事実については、被告甲野との間で争いがない。

二  マリーン会員権証券商法(本件商法)の違法性について

1  請求原因2(一)(1)の事実について、被告甲野は明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、被告京谷との関係では《証拠省略》によりこれを認めることができる。

2  ところで、《証拠省略》を総合すれば、本件商法は、昭和五九年夏以降本格的に行われるようになったが、その契機は、ファミリー証券商法(金地金を顧客に販売すると同時に、右金地金を顧客より賃借し、その賃借料を顧客に対し支払うというもの)において、そもそも金地金を保有せず、したがって金地金の償還が困難になった豊田商事グループが、その償還資金獲得のため、あるいはかかる償還という負担のない商品開発のため、前記ファミリー証券商法に代わるものとして、即ち償還の不要な商品として考案、販売されるようになったこと、本件商法の商品はマリーナの利用権であるところ、豊田マリーンクラブ傘下のマリーナの状況は昭和六〇年三月当時、九か所の敷地が買収に着手されていたが、そのうち長崎サンポートマリーナがナープン、他に二か所ほどがオープン予定であったのみで、しかもいずれも採算性についてははっきりしないこと、したがって、マリーン会員権の換金性についてははなはだ疑問であること、顧客から導入した資金のうちかなりの部分は大洋商事の経費として、または銀河計画を経由して関連企業へ貸付けられ、あるいは商品相場に投機され、いずれも費消されていること、それにも拘わらず、顧客に対して勧誘する際には、会員権が必ず値上りすること、賃借料の支払いが確実で損はしないこと、無税であること、解約が自由であること等の勧誘文句を使用することが一般的であったことの各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上によれば、本件商法は、そもそも採算性につき疑問のあるマリーナ利用権を販売するものであり、右会員権販売が一面において顧客からの出資であることを考慮すると、一般的に事業開始に当たって資金を調達する場合に比べてその確実性の点で極めて疑問があるというべきであり、それにも拘わらず、断定的に、右商品が優良な利殖商品であると宣伝勧誘する本件商法にはこの点でまず詐欺的要素が認められる。更に、大洋商事における顧客からの導入資金の使途及び本件商法の契機に鑑みれば、本件商法は、豊田商事における現物まがい商法によって不可避的に生ずる償還債務の穴埋めのための資金調達を目的としたものと断ぜざるを得ず、マリーン会員権の賃借料の支払は、新たに獲得した顧客からの売買代金をもって充てるしかなく、いずれ破綻することは自明であったといわざるを得ない。

4  《証拠省略》によれば、請求原因2(二)(勧誘行為の公序良俗違反性)の事実が認められ、右勧誘方法も、前記資金調達のための詐欺的手段として位置づけられていたというべきである。

三  原告らに対する具体的勧誘行為について

1  原告森キン

《証拠省略》によれば、原告森は、大正三年四月一五日生まれ(本件契約当時七〇歳)の一人暮らしの老人であること、昭和六〇年四月一〇日午後五時ころ、大洋商事の営業員である菅原が原告森宅を訪れ、同原告宅に上がり込んで同夜一一時ころまで、「妹が家を建てるに当たって子供名義の貯金を使ったため税金に一〇〇〇万円も取られたので、他人名義にしてある貯金があればこれを税金がかからないようにしなければ損である。明日会社に税理士が来るから相談しなさい。」などと勧誘したこと、原告森は翌日菅原に連れられて大洋商事横浜支店に行ったところ、その税理士らしき者から、「マル優が廃止されると莫大な税金がかかり、元本さえ減少してしまう。」などと言われ、原告森の預金通帳を調べるから全部持ってくるように言われたこと、これに慌てた原告森が自宅から預金通帳を持参すると、前記税理士らしき者が、これではすべて税金がかかるからといって、初めてマリーン会員権を買うように勧めたこと、その際、右会員権には税金がかからない、元本が保証されるうえに会員権は、値上がりする、利息は年一二パーセントで毎年支払われる、解約は自由であるとの利点があると説明されたこと、そこで原告森は、話がうますぎるとは思いながらも、菅原らが念を押したので契約に応じることに決めたこと、即日社員二人に付き添われて三井信託銀行横浜支店に赴き預金一三二八万円を解約して払戻し、結局一三〇〇万円を交付してマリーンオーナーズ契約を結んだこと、その際原告森は一年分の利息一五六万円(一二パーセントに当たる)を受取ったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  原告安達糾夫、同安達ヒロ

《証拠省略》を総合すれば、請求原因2(三)(2)の事実のほか(但し、税金がかからないとの説明がなされたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。)、鴨井は、昭和六〇年五月一〇日原告糾夫、同ヒロに対し、更に、マリーナのパンフレット(甲第二三号証)を見せながら、マリーン会員権のメリットとして、年一二パーセントの高金利であること、右会員権が必ず値上がりすることを説明したこと、右説明ないし勧誘は約四時間にも及んだこと、同年五月一三日に原告糾夫が大洋商事横浜支店に赴いたところ、被告甲野は右同様の説明をしたこと、これにより、原告糾夫は、五月一〇日に原告ヒロ名義で契約した代金の残金を支払い、更に、新たに原告糾夫名義で三〇〇万円の契約の締結を決意したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  原告片野嘉市

《証拠省略》によれば、請求原因2(三)(3)の事実のほか、新木が、昭和六〇年四月二二日原告片野に対し、更に、マリーン会員権はいつでも解約できること、元本は保証することを説明したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  被告京谷の責任について

以上の認定事実によれば、被告京谷は、詐欺的商法である本件マリーンオーナーズ契約を大洋商事に導入した責任者であり、原告らに対する勧誘行為を指示した者ということができ、原告らに対し、後記損害を負わせたことにつき不法行為責任を負う。

五  被告甲野の責任について

1  被告甲野が、原告糾夫、同ヒロに対してマリーン会員権のメリットにつき説明してその購入を勧誘したこと、右により原告糾夫が、既にした契約につき安心するとともに、新たに契約を結ぶことを決意したことについては前記三2認定のとおりである。

2  加害の認識ないし過失について

原告らは、被告甲野に詐欺の故意があった、ないし過失があった旨主張し、被告甲野は、組織の一員として行動したにすぎず、会社の説明を信じており、詐欺の故意ないし加害についての過失はなかった旨主張するので、以下、この点について検討する。

(一)  《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被告甲野は、昭和五七年一二月一日豊田商事に営業員として入社して池袋サンシャイン第一支店に勤務し、同五八年一月末正社員となり、同年五月主任、翌五九年二月課長に順次昇進し、その後同年八月静岡支店、同年一一月横浜第一支店、同六〇年一月池袋サンシャイン第二支店にそれぞれ転勤した。豊田商事では、成績に応じて昇進、転勤を決めるので、被告甲野のかかる経歴は、同人の右会社における成績が良好であったことを物語るものである。

(2) 右豊田商事に勤務中被告甲野は、主に、いわゆる一年もの(ファミリー契約における金の賃貸期間が一年のもの)のファミリー証券の販売に従事していたが、当時は、右ファミリー証券の販売を拡張しないと金地金ないしその代金の償還は難しいとの認識を持っており、また、指示されたセールストークのうち、ファミリー証券には税金がかからないという点については疑問を抱いてはいたが、顧客に質問されない限りこの点の説明はしていなかった。

(3) 昭和六〇年三月、被告甲野は、上司の指示により、他の三名とともに大洋商事に入社し、入社後の一か月間は、大洋商事の開業準備として、既に開設していた長崎のサンポートマリーナを見学したり、営業員を募集して社員教育を行った。右教育の内容は豊田商事のものと同様であってマニュアルに基づいてなされた。

(4) 被告甲野は、同社横浜支店が開業してからは、同支店の課長(給与は次長待遇、月額九五万円)として支店長に次ぐ役職に就き、課員約二〇名(営業員)の指揮をとり、営業員の勤務の点検をしたり、会社を訪れる顧客に対する勧誘を行った。

(5) 被告甲野は、大洋商事が集めた金員は銀河計画を通じて他の企業に融資されており、また、マリーナの資金は右銀河計画ないし豊田商事から出資されるものと推測していた。

(6) ところで、被告甲野は、昭和五九年ころから豊田商事の商法に関する新聞記事には注目していたところ、同年夏ころには被告甲野を含む中間管理職が集められて上司から「心配するな。」と訓示された。また、秋田地方裁判所本庄支部で言渡された豊田商事事件の判決については、社内でコピーを見ており、更に、昭和六〇年には、大洋商事と同じビルにある関連企業鹿島商事株式会社(ゴルフ会員権の販売会社)に関する批判記事にも目を通していた。

(7) 更に、被告甲野は、豊田商事に勤務中、ファミリー契約の解約をめぐるトラブル、顧客からの苦情があったことを知っていた。

《証拠判断省略》

(二)  以上の各事実のうち、被告甲野が豊田商事にとっての有能な社員であったこと、当時その商法自体ないしセールストークの一部につき疑問を抱かないではなかったこと、大洋商事においては開業の責任者の一人であり、また、開業後には支店長に次ぐ職にあって営業員を指揮監督する立場にあり、豊田商事同様の販売方法を指示していたこと、大洋商事が顧客から集めた資金は銀河計画を通じて他の企業に融資されていることや、昭和五九年ころから豊田商事に対する批判が新聞においてなされ、また、同社が敗訴する判決が言渡されたことにより、同社に対する社会的批判があることについては承知していたことなどからすれば、被告甲野には、本件商法が豊田商事等の資金集めを目的としており、しかも採算のとれないものであること、したがって顧客から集めた金員の返還はできないものであることについての認識があったものと推認できないではない。

(三)  これに対し、《証拠省略》中には、会社の資金運用、顧客から集めた金員の償還の可能性について、被告甲野は会社から説明を受けなかった旨及び、マリーナは次々と開設されており、ボートショーなども行われていたからマリーナ事業は行われる予定であると思っていた旨の供述があるが、仮にそうであったとしても、《証拠省略》に照らすとそれだけでは被告甲野の加害の認識を否定することにはならない。

しかしながら、《証拠省略》によれば、被告甲野は、伯母である乙山松子(昭和六〇年三月一六日付、契約代金二五九万九九五〇円)、妻である甲野花子(同五九年一一月七日付、契約代金三〇五万八五〇〇円)、伯父である丙川竹夫(同年二月一日付、契約代金二六万八一〇〇円)及び義弟である丁原春夫(同六〇年二月二〇日付、契約代金二二万五〇〇〇円)の各名義でファミリー契約を結んでおり、このうち妻名義の契約は被告甲野自身がファミリー証券を購入したものであることが認められ、このように親族にファミリー契約を勧誘したり、あるいは自ら右契約を結んだ事実からすると、被告甲野が、金地金の償還が不可能であるとの認識を持っていたことを認めることは必ずしもできないことになる。

もっとも、《証拠省略》によれば、豊田商事の社員がファミリー証券を購入する場合には、正社員になるためとか、後に詐欺行為の責任を追及された際の責任回避のためとかの場合があることが認められるが、被告甲野に関しては本件各証拠を子細に検討してもそのような事情を窺うことはできない。

結局、被告甲野について、詐欺の認識があったものと認めることはできない。

(四)  しかしながら、被告甲野の豊田商事及び大洋商事における職歴、地位、勤務期間、マリーン会員権の取引の態様並びに豊田商事及びその関連グループに対する社会的批判については前記(一)のとおりであり、更に、《証拠省略》によれば、昭和五七年ころから、国会衆参両議院商工委員会でもしばしば豊田商事の実名をあげて金の現物まがい商法の問題を取り上げていたこと、通産省でも消費者ニュースその他の刊行物において、金の現物まがい商法につき購入者に注意を呼びかけていたことが認められ、これらの諸事情に鑑みると、被告甲野としては、本件商法が豊田商事等の償還資金獲得を目的とするもので、ファミリー証券商法に代わるものであり、マリーナの開発、運用による収益はなく、したがって、マリーン会員権は資産的価値がないばかりか、顧客から集めた金員の殆どは人件費等に費消されている実態を認識すべきであり、かつ、認識し得たのであるから、このような営業は早晩破綻し、賃借料名義の利息の支払も、元本相当額の換金も不可能となり、結局、顧客に損害を与えるに至ることを予見し得たというべきである。それにも拘らず、被告甲野はこれを怠り、漫然とマリーン会員権の経済的優位性ないし確実性を述べて顧客を勧誘した過失があるというべきである。

3  よって、被告甲野は、過失による不法行為に基づき、原告糾夫及び同ヒロに対し、後記損害を賠償すべき義務を負い、右義務は被告京谷の同原告らに対する前記責任とは不真性連帯の関係にある。

六  損害

1  前記三の認定により、別表被害額欄記載の損害が認められる。

2  慰謝料について

《証拠省略》によれば、原告らはいずれも高齢であり、現在は職を持たず、年金生活を送っているのであり、原告らが奪われた金員は老後のための生活資金であったことが認められるから、被告らは前記各被害を被った原告らの精神的苦痛を慰謝すべきであり、その額は、原告森については五〇万円、糾夫については一五万円、同ヒロについては一〇万円、そして同片野については五万円とするのが相当である。

3  弁護士費用

原告らが、本件訴訟の提起追行を弁護士である原告ら訴訟代理人らに委任し、同代理人らによって本件訴訟が提起追行されたことは本件記録上明らかであり、原告らがその報酬の支払を約束したことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができるが、本件事案の難易度、審理に要した時間、認容額等を参酌すると、本件不法行為と相当因果関係にある損害と認められる弁護士費用は、原告森においては一一〇万円、同糾夫においては二五万円、同ヒロにおいては一五万円、同片野においては八万円とするのが相当である。

七  よって、被告らが原告らに対し支払うべき損害額は、以下のとおりとなる。

被告京谷は、原告森に対し、一三〇四万円

被告らは、各自、同糾夫に対し、三〇四万円

被告らは、各自、同ヒロに対し、二〇一万円

被告京谷は、同片野に対し、一〇一万円

そして、本件訴状が被告京谷に対しては昭和六一年三月一二日、同甲野に対しては同年七月一八日に各送達されたことは、本件記録上明らかであるから、被告らは右各翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

八  以上の次第で、原告らの本訴各請求は前記七の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、原告らの被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項但書、九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蘒原孟 裁判官 樋口直 小西義博)

<以下省略>

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